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3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/23(金) 10:39:36.66 ID:To5EBaNcO
第一話「ちょっとした奇跡」


5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/23(金) 10:45:52.13 ID:To5EBaNcO
 それは、寒い寒いクリスマスのことだった。
 寒いといっても気温のことではなく(その年は暖冬のせいか比較的過ごしやすかったように思う)、彼女がいない男が感じるうすら寒さであった。
 業務を終了しそそくさと帰ろうとすると、同僚のはしゃいだ声が耳に入った。

( ゚∀゚)「あーもしもしミカちゃん。今からそっち行くわ。ん、あー分かってるって。ケーキだろ、了解了解」

 会話が終了するとジョルジュ長岡は、どうやらペア用らしいストラップをつけた携帯を鼻歌まじりにくるくる振り回していた。彼はいつも上機嫌だが、今は殊更にそう見える。
 そんな彼と目が合ってしまった。

( ゚∀゚)「ドクオ、もう帰んのか?」

( 'A`)「仕事終わりましたし、ね」

( ゚∀゚)「ふーん、彼女?」


8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/23(金) 10:53:15.84 ID:To5EBaNcO
 彼は分かっていて俺にそんな質問を投げ掛けているのだろうか。こんな俺がクリスマスに約束などあるように見えるのだとしたら眼科に行くことをお勧めしたい。
 俺は首を横に振り、そのまま何も言わず足早にオフィスから出る。
 幸せそうなジョルジュへのちょっとした反抗だった。



ξ゚听)ξ「ケーキいかがですかー! 今ならお安くしますよー!」

 帰路に着くまでの道は地獄だ。商店街は見事なまでにクリスマスカラーに染まり、あちこちでサンタが売上のために声を張り上げている。
 いま一生懸命にケーキを売ってる彼女なんてミニスカートサンタだ。暖冬とはいえ冬だ。よくやるなーと感心する。

ξ゚听)ξ「ちょっと、そこのお父さん!」

 お父さん?
 なにやら俺とやたら目が合っている。まさか俺を呼んでいるのか。
 いやいやそんなまさか……

ξ゚听)ξ「あなたですよ!あなた!」

( 'A`)「……」

 なんということだろうか。



12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/23(金) 10:59:04.86 ID:To5EBaNcO
 若干二十一歳。
 まさかお父さんと呼ばれるとは。
 あ、でもこの歳で父親な人はたくさんいる。いやいやしかし、彼女は俺のどこにそんな要素を読み取ったのか。

ξ゚听)ξ「お父さん、お子様にお一つケーキ買いませんか?」

 近づくと、彼女はケーキの箱を差し出しながらにっこりと微笑む。

ξ゚ー゚)ξ「きっと喜ばれますよ」

 脳内の中で架空の子供が登場する。「パパ、お帰りー」と走って俺に抱きついてくるのだ。
 いい。かなりいい。

( 'A`)「あ、じゃあそれ、ひとつ」

ξ゚ー゚)ξ「毎度ありがとうございます!」

 ケーキ代を支払う時、彼女の冷たい指先が触れた。
 そりゃあ寒いだろう。当たり前だ。

 少し考えて、こんな質問をする。


16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/23(金) 11:07:32.78 ID:To5EBaNcO
( 'A`)「俺何歳に見える?」

 彼女は俺の顔を凝視して、疑問系で答えてくれた。

ξ゚听)ξ「えーと、………三十?」

( 'A`)「二十一です」 

ξ゚听)ξ「……」

( 'A`)「ケーキ、ありがとう」

 唖然とした顔がほんのばかし滑稽だった。



 やっとこさアパートに着いた。ポストを確認すると地元のいつも贔屓にしてた眼鏡屋からのクリスマスカードだ。しかも手作り。まめな人だ。

( 'A`)「ただいまーと」

*「おかえりー」

( 'A`)「……」

 返って来ないと思っていた。だから一瞬思考が停止して、その場に立ち尽くした。
 俺は一人暮らしだ。そしてこの前上京したばかりだ。ここに訪ねてくるような友達はいない。
 じゃあ今の声は一体。


21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/23(金) 11:14:28.12 ID:To5EBaNcO
 まあ常識的に考えて泥棒だろう。しかし泥棒はこんなにも陽気に返事をするものだろうか。
 愉快犯? クリスマスで一人寂しく過ごす男にちょっとした幸せを、ってか?
 玄関に置いてある自転車の空気入れを握りしめ、ゆっくりとさっき声がした居間へと近づく。
 人の気配はあるが、犯人がいるところは壁で死角になってて見えない。
 しかしテレビが付いているのは確認できた。明石家さんまのクリスマス恒例の番組。なにのんびりしてるんだ、殺すぞ。

 ふう、と一息吐く。
 もしかしたらこれで死んでしまうかもしれない。クリスマスに死んだら新聞に載るかもしれないな。おめでたい。
 ふとさっきのミニスカートサンタの声が頭をよぎる。

ξ゚听)ξ(三十一?)

 まだ、死ねない。

(#'A`)「誰だああああああ!」


25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/23(金) 11:20:35.50 ID:To5EBaNcO
 俺は部屋に踏み込み、犯人を叩き潰すつもりで空気入れを振り上げた。
 外したら殺される。絶対に返り討ちにあう。過去これほどまでに緊張した瞬間はない。

(#'A`)「りゃあああ」

 見える人影。それめがけて渾身の力で振り下ろす。

*「ちょ、ぎゃああああ」

(;-A-)「……」

 凄まじい破壊音がして俺は無意識に閉じていたまぶたを開けた。
 壁に穴が空いていた。寝室が丸見えだ。

(;'A`)「どういうことだ……」

*「ドクオ、僕だお」

( 'A`)「え?」


26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/23(金) 11:24:40.15 ID:To5EBaNcO
 ずいぶん聞き慣れた声がして、後ろを振り返る。

( ^ω^)「久しぶりだお」

( 'A`)「……」

 故郷での幼なじみ、内藤ホライゾンがいた。

( ^ω^)「ドクオが上京して以来おー。帰って来なかったらどうしようかと思ったお」

 呑気にぺらぺら喋りだす内藤のせいで、手の力がふにゃふにゃと抜ける。ぽとんと空気入れが床に弾んだ。

( ^ω^)「いやあ、ドクオ変わってなくて安心だおー」

( 'A`)「……」

( ;A;)「……」


32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/23(金) 11:32:56.50 ID:To5EBaNcO
(;^ω^)「な、泣くなお!そんなに僕に会えるのが嬉しかったのかお?」

( ;A;)「……」

 反論する気にもなれないくらい、俺はひどく安心していたのだ。
 怖かったのだ。男とは言え、こんなことは怖いに決まっている。

 その場にしゃがみこんで大泣きした。声を出さないように口は閉じて、身を震わせて泣いた。
 内藤はおろおろとしているようだったが構わず泣きじゃくる。

 多分、今のことだけじゃない。
 会社とか、クリスマスとか、友達とか。その他もろもろのわだかまりも入れて、泣いたのだった。
 すべて洗い流すために。



( ^ω^)「落ち着きましたか」

( 'A`)「おかげさまで」

 内藤は濡れタオルをタイミングよく俺に手渡してくれた。こういうところ変わっていない。


36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/23(金) 11:57:53.16 ID:To5EBaNcO
( 'A`)「で、内藤詳しく説明しろ」

( ^ω^)「何をだお?」

( 'A`)「どーしてここにいるかだよ。あとどうやって家に入った」

 スーツを脱ぎながら質問すると、内藤はしばし俺を見つめそしてはっと気付いたように答えた。

( ^ω^)「どうしてかっていうのはつまりドクオに会いたかったからだお。どうやってかは住所はもともとドクオが教えてくれてたし、大家さんに事情を説明したら快く鍵をくれたんだお」

( 'A`)「なるほど」

 そういえばこいつに住所教えてたっけか。

( 'A`)「つーかわざわざ俺に会うために二時間かけてここに来たのか」

( ^ω^)「おっお、行きは不安でたまらなかったお」




38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/23(金) 12:03:23.52 ID:To5EBaNcO
( 'A`)「……」

 考える。
 もし俺が内藤と逆の立場だったら、俺はここまで来ただろうか。
 答えはいいえだ。友達甲斐のないやつだ。

 内藤はぬくぬくとコタツに入りながらぼんやりと呟く。

( ^ω^)「ドクオに女が出来てなくてよかったお」

( 'A`)「悪かったな」

 その言葉に少々ひっかかりながらも、悪態を付く。そういう内藤だってこの日にここに来るってことは……あれ?

( 'A`)「お前、しぃちゃんは?」

( ^ω^)「なんのことだお」

 すっとぼけた内藤に蹴りを入れて、俺は記憶を辿る。
 そうだ、俺が上京するちょっと前、確かに内藤には彼女がいたはずだ。


39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/23(金) 12:08:00.89 ID:To5EBaNcO
( ^ω^)「ドクオの思い違いじゃないかお?」

( 'A`)「とぼけてん
じゃねーよ」

 だってあんなにしつこく自慢してきたじゃないか。それはそれはうざったいほど、何度も何度も『しぃが――しぃが――しぃが――』って。

( 'A`)「……」

 ふと胸になにかがつっかえたような感覚がする。
 気にしないふりをして話を続けた。

( 'A`)「おい今更隠したってしょうがないだろう。それともあれか、俺に気を使って――」

( ^ω^)「別れたお」

 あまりにもそっけない返答が、内藤の心の傷を察しさせる。きっと内藤は深くしぃを愛していたが、破局は突然に現れてしまったのだろう。

( 'A`)「すまん」

( ^ω^)「いや、気にするなお」


42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/23(金) 12:13:46.72 ID:To5EBaNcO
 気まずい沈黙が流れ、俺は視線をさっき空けてしまった穴に注いだ。
 これ本当どうしようかな、大家さんに怒られるだけじゃすまないだろう。金とか金とか金とか、さ。
 いやいや今日だけは忘れよう。せっかく内藤が遠路はるばるきてくれたんだ。

( 'A`)「内藤、ケーキ食うか?」

( ^ω^)「ケーキ?」

( 'A`)「そう。さっき売りつけられちゃった」

( ^ω^)「……ドクオらしいお」

( 'A`)「食うのか、食わねえのか」

( ^ω^)「食べるお、頂きますお」

 玄関に置きっぱなしだったケーキを取りに歩いて時、またまたあのミニスカサンタが頭に出てきた。

ξ゚听)ξ(お子様が喜ばれますよ)

( 'A`)「……」

 少し考え、吹き出す。

( 'A`)「お子様みたいなもんだ、内藤は」

 ミニスカサンタの予言は当たった。


44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/11/23(金) 12:14:59.28 ID:To5EBaNcO
 それはちょっとした奇跡のようだと、俺はケーキを抱え内藤のもとへと向かった。


第一話 完

→第二話

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